
内壁の向こうで、メンバーたちの声が鋭くぶつかり合っていた。
最初はソヒョンの落ち着いた声がところどころ聞こえていたが、
それも混乱の渦に飲み込まれ、次第にかき消えていく。
(このお姉さんたち、いったい何やってんの。)
ハヨンは今にも飛び出したくなって、思わず足を踏み鳴らした。
けれど、それ以上は動けない。
たとえクジラの心臓があっさり外へ出してくれたとしても、
二十四人を一度に落ち着かせるなんて無理だ。
そんな自信、どこにもない。
チョン・ハヨンは「公式オールラウンダー」。
……言い換えれば、こういう非常時に使える決定打を、何ひとつ持っていないということだった。
――チェヨンさんみたいに場を回せるわけでもない。
――ジヨンお姉さんみたいに、バレエで身体をさばけるわけでもない。
――ダヒョンお姉さんみたいな統率力があるわけでもない。
(なんなの、ほんと。)
涙がこぼれる前に引っ込めようと、ハヨンは手で何度もあおいだ。
普段なら最大の武器になるはずの自信すら、今は底へ沈んでいく。
そのときだった。
モコの一体が足を滑らせ、マユを突き飛ばす。
マユの手に握られていた鋭い槍先が、クジラの心臓の筋膜を――こつりと突いた。
ウゥゥゥン……ウゥン……。
クジラの悲鳴が、雷鳴のように響き渡る。
次の瞬間、世界が裏返った。
理解する間もなく凄まじい突風が吹き荒れ、
気づけばハヨンたち六人は、紙切れのように舞いながら宇宙空間を漂っていた。
クジラの噴気孔から、押し出されたのだ。
遅れて、クジラが大きく首を反らす。
そして小惑星に匹敵するほどの巨岩を吐き出した。
そこには、十八人のメンバー全員が必死にしがみついている。
「しっかり掴んで!」
ニエンの叫びと、ヘリンの怯えた悲鳴が重なって聞こえた。
しかも、その岩は地球へ向かっている。
このままじゃ、落ちて死ぬ。
けれど――衝突そのものより、もっと大きな問題があった。
ハヨンが、あの岩へ乗りたいと思ってしまっていることだ。
六人で心細く宇宙を漂うくらいなら、二十四人そろったまま最期を迎えるほうがいい。
そんな馬鹿げた考えが、胸の奥で妙に現実味を帯びてしまう。
ハヨンはスミンとヨンジ、ジュビンの手をぎゅっと握りしめたまま、
ただ、岩をぼんやりと見つめていた。
(あの子たち、私たちがここに残ってるなんて、思いもしないよね。)
自嘲が胸を刺した、そのときだった。
岩にしがみついていたピンク髪のメンバーが、ふいに顔を上げる。
キム・チェウォンだ。
目が合うなり、チェウォンは勢いよく立ち上がった。
「受け身――!」
「え?」
「受け身! できるでしょ、ほら!」
……そうだ。
ハヨンは思わず笑ってしまった。
特殊戦闘術がチェウォンの“キャラ”として知られているとはいえ、自分だって習ったことがある。
番組の設定に引っ張られて、本当に身についている技まで忘れるなんて――馬鹿みたいだ。
(家に帰ったら、チェウォンの似顔絵、何枚でも描いてあげる)
ハヨンは心の中で、ありったけの感謝を叩きつけた。
「みんな、私に掴まって!」
叫ぶや否や、六人はもちろん、
巻き込まれてきた宇宙人まで含め、全員が一本の列になるように手をつないだ。
ハヨンは漂う宇宙ゴミを踏み石代わりに蹴り、次々と跳ぶ。
無重力の推進力が全員の身体をふわりと持ち上げ――岩の表面へと運んだ。
その場で転がり、遅れて落ちてくるメンバーを受け止める。
全員、無事。
「ナイス!」
ちょうどその直後、岩は大気圏に突入し、炎の幕をまとい始めた。
(ここから先は……。)
ハヨンは真剣に悩んだ末、肩を軽くすくめる。
(みんな一緒なら、なんとかなるでしょ。)
落下のさなか….
ソアは静かに周囲を観察していた。落ちる巨岩、二十四人のメンバー、
そして巻き込まれた宇宙人――すべてを注意深く見回す。
軽率に動かず、状況把握に全力を注ぐこと。それがソアの強みだった。
「大丈夫。たいていの隕石は落ちながら燃えて、ここでパッと消え――」
ユヨンが岩の縁へ向かいかけ、戸惑ったように振り返る。
「……思ったより、平気だね」
「むしろ都合いい」
長く消耗していたソヨンが口を開いた。
「答えを聞く時間は十分ある。パイロットを連れてきて。どういうことか、ちゃんと説明してもらおう」
「今?」
ナギョンが噛みつく。
「今じゃなきゃ、いつ聞くの」
視線が一斉に、パイロットのモコへ向いた。
彼は切羽詰まったようにぴょんぴょん跳ね、身振りで何か説明しようとするが、どれも伝わらない。
「あ、そっか。私にしか聞こえないのか」
モコの長々しい言い分に耳を傾けていたコトネが言った。
彼女は王冠を外し、逆にモコの頭へ被せる。
「これなら通訳できるよね?」
その瞬間、質問の嵐が押し寄せた。
「いったい何なんですか!?」という根本からの問い。
「どうして地球からは宇宙船が見えなかったの?」
「触れるものと触れないものが分かれてたのは?」
そして「そもそも、あのクジラの正体は何?」――。
数え切れない疑問符が波のように重なり、モコへ突きつけられる。
だが、宇宙人の口から最初に出た言葉は、整った説明とは程遠かった。
「うわ、すごい人数――」
「呼んだのはそっちでしょ!」カエデが即座に突っ込む。
「みなさんがここまで巻き込まれるなんて、想像しました? しませんよね」
モコは腕を組み、輪の中心へ歩み出た。
いつの間にか二十四人が輪になり、彼を取り囲む形になっている。
「私たちじゃなきゃ、誰を呼ぶつもりだったの?」
ナギョンが思わず手を挙げて割り込む。
モコは呆れたように首を振った。
「その子ですよ。会場にいたでしょう?」
モコが首元の装置に触れると、見知らぬ少女の写真がホログラムのように浮かび上がった。
ソアと年が近そうで、妙な親近感が湧く。
「その子!?」
ソヨンが勢いよく立ち上がり――ふらついて、ダヒョンに支えられた。
ソアの知る限り、ソヨンがここまで露骨に声を荒げるのは極めて珍しい。初めてかもしれない。
「え、知ってるの?」
ニエンが問う。
「ファンミで見た」
ソヨンは眉間を押さえた。顔色は土気色で、骸骨みたいに骨ばった輪郭が際立っている。
「泣いてばっかで、しゃべれなくて……名前も知らない。あの子が、これと何の関係があるの?」
モコはため息をつき、片眼鏡を直した。
「本当なら最初から説明すべきでしたね。……ええ、ええ。
通訳機を落としてしまったのは私の落ち度だ、ということでいいでしょう。
鍵を受け取った途端、それを戦闘に使ってしまったあなた方の落ち度もありますが」
モコは淡々と言葉を続ける。
「ともかく、あの子がジェニスを目覚めさせたんです。――私たちの都市が載っている、
あのクジラです。地震でも起きたみたいに、地面が揺れたんですよ」
モコはソヨンの手から、折れた剣を取り上げた。
「私たちが、あなた方と違って粒子ではなく波でできた生命体だということは、
もうある程度察しているはずです」
「あー、だからね」
シオンが小さく手を叩く。
「だから私たち、月面車とか触れなかったんだ。
地球のすぐ隣にあっても見えなかったのも、それ。
……じゃあさ、波でできたパンがあったら、今の状態でも食べられるってこと?」
「……そうなりますね。」
モコは眉をひそめる。
「よかった!」
モコは咳払いして、話を戻した。
「とにかく私たちは、波の技術を使って普通に暮らしていました。
“粒子”の原本を残したまま複製を作れる。
太陽にあった都市がジェニスの中に同じ形で存在できたのもそのおかげですし、
あなた方が地球にいながらここに“存在している”のも同じ理由です」
シンウィが理解したように頷き、隣でユビンがジウに何か囁いた。
「なんて素晴らしい技術!
粒子のものには脅かされませんから、事実上、永遠の命を手にしたようなものです」
「技術じゃなくて、クジラの能力を奪ったんでしょ!」
コトネが腰に手を当てた。
「まあ……そういう言い方もできますね」
モコは面倒くさそうに肩をすくめた。
「ですが、私達が何か“悪いこと”でもしましたか? クジラは死んでいません。
心臓が止まっていただけで、いつでもまた動き出せる状態だった。
お互い、眠ったまま平和に暮らせたはずなのに――ある日突然、目を覚ましたんです」
モコは苛立ちを滲ませる。
「しかもよりによって、ジェニスの心臓とぴったり一致する周波数で泣く少女のせいで」
「……どう泣いたらそんな」
ヘリンが首を傾げる。
「さあ。確かなのは――私が地球へ降りると決める直前、
その子が先に“この世を去ろうとしていた”ということです。
コンサートも、隕石が落ちるという話を聞いて行ったらしい」
「泣き声と共鳴して心臓が動いた? 声でグラスを割るみたいに?」
ユヨンが額に手を当てた。
「私は……そういう説明、受け入れられない。理屈を突き詰めても無駄だとしても、受け入れられない」
「で、その子をどうするつもりだった?」
ソヨンが片手でユヨンをなだめながら聞く。
「閉じ込めるしかありません。いつも通りに」
モコは当然のように言った。
「そうすればクジラはまた眠ります。鍵を使って、その子をジェニスのロケットに入れるだけ。
先祖の代からずっとやってきたことです。二十四回も、ですよ」
「壁画の内容って、それ?」
シンウィが皆に聞こえるよう呟く。
「でも私たちに、心臓を刺せって言ったじゃん」
「その程度では死にません。……儀式みたいなものです」
モコは言葉を濁す。
「ほかのモコにとっては、数百年ぶりの“お客さま”だったでしょうからね……」
ソヨンの眉が跳ね上がった。
「それで? 閉じ込めたら、その子はどうなるの。
私たちみたいに波の形に分離して、“分身”だけを閉じ込めるってこと?
それで本人は、何も知らないまま地球で生きていくの?」
モコは気まずそうに笑って視線を逸らした。背筋の凍る含み。場がざわつく。
「……今のところ、方法はそれしかありません」
モコは声を低くする。
「ちょうど地球へ降りるところです。
せっかくですし、今回はきちんとやりましょう。――その子を、私に渡してください」
「そうすれば、あなた方は元に戻します。あとはこれまで通り生活すればいい。
アイドルとして生きるなり何なり。……私の知ったことではありません」
十分後
ソアは、わざと議論の輪から少し離れた場所にいた。
モコの提案を受け入れるかどうかは、ほかのメンバーが決めればいい。
ソアは昔から年齢のわりに大人びていると言われてきたけれど、
そういう「褒め言葉」で自分を縛ろうとする意図があることも分かっていた。
ダヒョンが海王星で言った通り、末っ子の役目は危険に飛び込まないこと。
――動きたいのに、黙っているのが美徳になる。
隕石の縁に揺れる炎をぼんやり見ていると、背後に気配がして、誰かが隣に腰を下ろした。
「火を眺めてるの?もー、本当に可愛いんだから!」
リンだった。
ソアはつい顔を背ける。
リンがソアを「かわいい」と言うのは日常茶飯事だ。
でも今は、それが妙に居心地悪い。
「怖い? もうすぐ帰れるよ。だから心配しないで」
「違う。……なんか、おかしいじゃん」
ソアは唇を尖らせた。
「あの女の子が泣いたせいで、あのクジラ――ジェニスが目を覚ましたんでしょ?
その子だって、つらいことがあって泣いたはずじゃん。
なのに、その子を犠牲にして“世界を救う”って……」
個人の悲しみが宇宙の危機につながるのなら、どうしてその子の幸福を、
宇宙の安寧と同じくらい大事にしないのだろう。
どちらも同じ価値を持つはずなのに。
ソアには、モコの論理が理解できなかった。
「確かに、変だね」
リンはソアの頭を軽く撫でた。
「嫌なら、一度言ってみれば?」
「……わざわざ?」
ソアが聞き返す。
「言って困ることはないでしょ」
リンは肩をすくめた。
……そうかもしれない。
ソアは腹を決め、姉たちの輪の中心へ歩き出した。
歩幅を進めるたびに考えを言葉へ固め、輪の真ん中に立ったとき、
胸の奥にある本音は一つの文になっていた。
深く息を吸う。
「私たちが、ここに残ります」
モコを含め、その場の全員がソアを振り向いた
「海王星のクジラたちだって、ママに会いたがってた。
なのに、ジェニスを必ずまた眠らせなきゃいけないんですか?
起きてしまったなら、少し自由に生きさせてあげましょう」
ソアは首を横に振って、モコが口を挟む前に続ける。
「ジェニスが動いて街が揺れるのが問題なら、揺れないように滑らかなコースを作ればいい。
共存しましょう。もし暴れそうになっても、私たちが得た力で落ち着かせられるかもしれない。
私たちがここに残ればいいんです。誰も犠牲にしないで」
ソアは背筋を伸ばし、返事を待った。
「ソア……慎重に考えたほうがいい」
ソヒョンが、いつになく静かな声で言った。
「気持ちは分かる。でもこれは、これから先ずっと――家に帰れるかどうかを決める話だよ」
「……分かってます」
ソアは小さくうなずいた。もう迷いはなかった。
「私は、決めました」
最初にソアの意見に賛同したのはジュビンだった。
「そうだよ。たとえ私たちがここに残ったとしても、一生、周りの人たちと断絶するわけじゃない。
地球の“私たち”が何かを感じたり、経験したりすれば、
その記憶や感情は、ちゃんとここにいる私たちにも伝わる」
その言葉に、ジウをはじめとする何人かのメンバーが、まだ納得しきれないという表情を浮かべる。
「だったら……投票にしましょう」
ソアは一歩も引くつもりはなかった。ここで曖昧に終わらせるわけにはいかない。
「少し時間を取って考えてください。その子を連れてくる代わりに、私たちがここに残るかどうか。
一人でも反対が出たら、地球へ戻ります」
場がざわめき、やがて空気が変わっていく。ソアの提案を、真剣に受け止め始めた証だった。
与えられた時間は、五分。
ソアは、シンウィとヘリンが声を潜めて話し合う姿を見た。
ユヨンとソヨンは、言葉少なに、けれど深く考え込んでいる。
普段は冗談ばかりのチェウォンも、珍しく眉を寄せて輪の中に立っていた。
その間にも、足元の隕石はゆっくりと亀裂を広げていく。
割れ目の向こうには地球が見えた。
国の輪郭がはっきり分かるほど近づき、雪をかぶった山脈や都市までもが視認できる。
(……そういえば、今日って、クリスマスだっけ。それとも、イブ?)
ソアは無意識に一歩、後ずさった。
失うものが、あまりにも多い。ジェニスに残れば、もう二度とぬいぐるみのトトを抱けないかもしれない。
あの味の濃いビビン冷麺だって、もう口にできない。家族と過ごすクリスマスも――当然、叶わなくなる。
自分で言い出したことなのに、心が揺れた。
それでも、耐えられると思った。たった一人でも救えるなら、すべてを差し出す覚悟はある。
そもそも、自分がアイドルを目指した理由はそれだった。
職業としてではなく、誰かが寄りかかれる存在になりたかった。
見ているだけで力を与えられる人に。間接的にでも、誰かの人生を支えられる人に。
――今はもう、言葉だけじゃない。それを行動に移すときだった。
ソアは、自分より幼い一人のファンの人生を、守ると決めた。
制限時間が終わり、tripleS全員が円を描くように立った。互いに背を向け、目を閉じる。
円の中心で、モコが進行役を務める。
彼はしばらくの間、「まったく……本当に理解しがたい考え方ですね」と小言をこぼしてから、咳払いをした。
「このままここに残り、ジェニスとモコの守護者となることを希望する方。手を挙げてください」
「では――問題の原因となった少女をロケットに収容し、元の生活へ戻りたい方」
短い沈黙が落ちた。
「……結構です」
モコは深く息を吐いた。「満場一致ですね」
反応はさまざまだった。マユやニエンのように苦笑する者もいれば、
ソルリンのように安堵の息を漏らす者もいる。
ナギョンは、その場にへたり込んでいた。
けれど、どの表情の奥にも共通しているものがあった。――これでよかった、という思い。
そこから先の動きは驚くほど迅速だった。
コトネが子クジラを呼ぼうと提案し、ハヨンがイルカのような高音の口笛で応える。シ
ンウィとダヒョンが順序よくメンバーを乗せ、ソルリンは一人ひとり人数を確認した。
ソアがずっと見てきた、頼れる「お姉さんたち」の姿。それが今日は、いつも以上に心強く映った。
「よく言ったよ」 ソヨンは、ソアを子クジラに乗せながら言った。「本当によくやった」

「……今回の判断は、正しかったですよね」
ソアは少しだけ迷いを滲ませる。
「でも、これからずっと、この宇宙で生きることになる。もし私の提案が間違いだったら……」
ソヨンはしばらく黙っていた。
それから、ふっと力を抜くように笑い、ソアのすぐ後ろに腰を下ろす。
「そのときは、私がなんとかするから」
声は、さっきよりもずっと柔らかかった。
「無理して大人ぶらなくていいよ。まだ末っ子なんだから」
その言葉と同時に、子クジラたちが力強く飛び立った。少し前まで威圧感を放っていた隕石は、ばらばらに砕け散る。
ソアは、溶ける蝋のように消えていく岩を最後まで見届けてから、前を向いた。
宇宙に散りばめられた星々が、照明を浴びた雪のようにきらめいている。
「メリークリスマス」
ソヨンが微笑んだ。
ジェニスに到着してから、メンバーたちはソアの計画をどう実行するか、時間をかけて話し合った。
そして、長い議論の末に出た結論はこうだった。
かつて偶然引き離されたときと同じように、六人ずつ四つのチームに分かれる。
それぞれが月、太陽、海王星へ向かい、モコたちと協力して三つの天体に灯台を建てる。
ジェニスが決められた軌道だけを、安定して巡れるようにするためだ。
さらに、一つのチームはジェニスに残り、その心臓の管理を引き受ける。
同時に、モコたちが軽率な行動に出ないよう、目を光らせることも決まった。
「それに、どうせ変身も解けそうにないし」
ソルリンが、どこか含みのある笑みを浮かべた。
「モコたちが、いずれジェニスを完全に離れられるようにさ。
都市の再建も手伝ってあげるのはどう? そうすれば、ジェニスも海王星で生きていけるでしょ」
賛同の声があちこちから上がった。
帰り道ずっと不機嫌そうだったパイロットのモコでさえ、
諦めたように肩を落とす。
そのモコが、ソアの足元でぼそりと漏らす。
「まったく、スーパー・ヒーローばかり!」
ヒーロー。
はっきりとした皮肉だった。
それでも、ソアの胸は高鳴った。
アイドルとしてのデビューが決まったときと同じだ。
久しぶりに、新しい人生が始まる予感で心が満たされていく。
tripleSが四つに分かれる。それは確かに、これまでになかった形だ。
けれど――
これまで二十四人で一つだったのなら、四つに分かれても、やっぱり一つでいられるはずだった。
もう、迷うことはない。
――なんだか、面白くなりそうだ。